day18 退院の目途
朝から朗報だ。
主治医から、輸血の必要がなくなり、ご飯が食べられるようになれば退院できると言われた。しかも、早くて2週間、それが無理でも3週間見ておけば退院できるのではないかと。
それを聞いたときは嬉しさより驚きのほうが強かった。
移植前の説明では確か、2,3か月は入院の必要があると言っていたような。インターネットを見ても大体それくらい入院するという情報が多かった。
とはいえ、隣の部屋にいた友人は移植後1か月で退院したんだった。ありえない話ではない。
輸血は頻繁に受けている。血小板の値が低いのだ。これは努力ではどうしようもない。数値が上がっていくことを祈るしかない。
問題は食事だ。食欲はまだ戻らない。昨日の夜はお粥を食べることができたのだが、今日はカットフルーツだけ。これでは点滴を外すことができない。あと2週間でどうにかなるのだろうか。
不安は尽きないが、退院の話が出たことは大きな前進だった。
食事のこと以外にもう一つ気がかりなことがある。急性GVHDだ。これまでの下痢や口内炎は前処置の副作用だ。食欲不振も放射線照射してからずっと続いているので同じく前処置の影響だろう。ということで、今のところGVHDと思われる症状はない。
リハビリの先生は、多少でもGVHDを発症した方が良いと言っていた。インターネットにも同じようなことが書いてある。
私はどうだ。幸か不幸か、まったくGVHDになっていない。これはこれで問題なのではないか。気がかりなのは急性GVHDの症状が出なくてもいいのかということだ。実を言うと、この2週間ほどそのことが気になっていた。
わからないことは医師に聞いた方がよい。
そう思って退院の話が出たついでに質問をした。
私の場合は寛解状態で移植をしたのでGVHDはない方がよい、との回答だった。
それを聞いて胸をなでおろした。多少でもGVHDの症状が出てほしいと願っていた自分があほらしく思えた。もっと早く聞けばよかった。
もちろん、まだ油断はできない。白血病そのものではなく、感染症がこじれて肺炎になり、それが原因で亡くなった人もいると聞いた。免疫力は低い。何かに感染する可能性は十分にある。
気を抜かず、しっかり感染対策をしよう。
day19 リハビリ開始
昨日退院の話が出たことで、モチベーションが上がった。
朝食はチョコデニッシュにトライした。パンを食べるのは久しぶりだ。移植を受けてすぐはパンが食べられなかった。ハムサンドは味がおかしかったし、ウィンナーが挟んである菓子パンは見ただけで気持ち悪くなり、封を開けることなく破棄した。
甘味は正常に感じることができるとわかっていたので、甘めのデニッシュパンにチョコレートというデザートのようなパンを選んだのだ。この選択が良かったのか、ほとんど食べることができた。
栄養バランスとかカロリーのことを考えるのは二の次だ。まずは何でもよいから食べられることが大事だ。
リハビリも私なりに頑張った。
3週間あまりまともにリハビリをやっていなかった。寝たまま手足のマッサージを受けていただけだ。無理はしないように言われているが、多少無理をしてでもどこかのタイミングで一歩を踏み出さないといけないと思った。
歩く気力はまだない。そこでソファに移動し、座位保持と立位保持を行った。座位保持3分、立位保持3分、それを3回繰り返した。たったそれだけだ。しかし、ほとんど寝たきりだった私にはそれだけのことがかなりしんどい。
こんな状態では退院なんてできやしない。
退院の話が出て浮かれていたが、自分の現状を目の当たりにして愕然とした。
起きている時間を増やさないといけない。ソファに座るだけでもよいだろう。そして何より食べることだ。食べないと体力もつかない。食べられるようになれば点滴から入れている免疫抑制剤を飲み薬に変更できるそうだ。
やはり食べられるようになることが退院の絶対条件ということだ。
ついに生着
夕方、医師が様子を見に来た。朝夕、1日2回様子を見に来てくれる。午前中に血液検査の結果はもらっていた。白血球の値は2,120だった。おとついは3,720だったので随分減っているのだが、これは白血球を増やす薬を打たなくなったことが影響しているだけだという。
そして夕方、医師から「生着でいいでしょう。」と言われた。待ち望んだ言葉だった。ついに生着を宣言されたのだ。
生着不全になったらどうしようという不安からやっと解放された。
day20
血液検査の結果は昨日とほぼ変わらない。白血球は1,980と少し下がったが、だいたいこんなもんだと医師から言われたので心配はしていない。急激に増加することはないとのことだ。
体調も変わらない。つまりそれほど元気ではないということだ。それでもリハビリを頑張らないとと思い、病室を出て、廊下を歩いてみることにした。
以前、体力が落ちた時に点滴スタンドを杖代わりに歩行練習をしたことがあった。しかし今は点滴スタンドくらいではこの弱った体を支えられない。そこでリハビリの先生が馬蹄型の歩行器を用意してくれた。これなら身体全体を歩行器に預けて歩くことができる。重い点滴スタンドは先生が押してくれた。
久しぶりに病室から出た。
見慣れているはずの病棟はどこか他人行儀だった。知らない土地に来たようで落ち着かない。私は浦島太郎のように過去に一人取り残されたままだ。まるで3週間前で時間が止まっているようだった。
そんな奇妙な感覚に陥りながらもゆっくりと歩みを進めた。
脚が思うように上がらない。何度もつま先が引っかかる。歩行器がなかったら間違いなく転倒していた。
途中で休憩をはさみ、1周100メートルの廊下をなんとか歩き、病室に戻った。
初日にしては歩けた方ですよと励まされリハビリを終えた。
昼食は鮭おにぎりと野菜ジュースにした。明日から点滴から入れている栄養の量が半分になると言われたため、多少でもカロリーが高いものを食べなければと思ったのだ。
久しぶりに米を食べた。なんとか完食できたのだが、その後すぐに胃もたれになった。しばらくしても治まらない。
夕飯は結局食べられず、最終的に吐き気止めの点滴をしてもらい、眠ることができた。
なかなか思うようにいかないものだ。
※血液検査の結果※
| day19 | day20 | 基準値 |
白血球 | 2,120 | 1,980 | 3,300~8,600 |
赤血球 | 278万 | 266万 | 386万~492万 |
ヘモグロビン | 8.4 | 7.9 | 11.6~14.8 |
血小板 | 5万2,000 | 3万9,000 | 15万8,000~34万8,000 |
網赤血球 | 0.28 | 0.26 | 0.3~1.1% |
コメント