いつかは死ぬけどそれは遠い未来の話。健康にも気を使っているしこれまで病気らしい病気になったことはない。だからきっとこの先も病気にならない、などと勘違いをしていた48歳アラフィフの私。それが!まさかの白血病!!
平穏な毎日だった。のらりくらりと生きてきた。そんな日々が突然終わりを告げられた。そしていやおうなしにその時はやってきた。「入院」だ。
入院の日がやってきた。
この日は朝一番で会社に行き、白血病のためしばらく入院することを伝えた。
上司は頭を抱えていた。言葉にならないという感じで。今月に入り、その上司から業務の引継ぎを受けていた。私に引継ぎが終われば退職することになっている。その私が長期離脱するとなると自分の進退にも少なからず影響が出ると思ったのだろう。
私はというと、感傷に浸っている暇はない。仕事の段取りをつけ会社を後にした。そして彼氏さんの待つ車まで行き病院へ向かった。
外来の予約まで少し時間がある。私たちは車の中でたわいもない会話を楽しんだ。昨日はたくさん泣いた。だから今日はもう涙を見せない。二人で決めた約束だった。そして無情にも時間はやってきた。彼氏さんは仕事がある。荷物だけ病院内に持って行ってもらいそこで別れることにした。その後は母が付き添ってくれる。
病院のロビーは人であふれていた。その雑踏の中に見覚えのある後ろ姿が・・・
この背格好
母だ!
と思った瞬間、その人物が振り返った。
「あら!」
母の視線は私を一瞬とらえ、すぐに彼氏さんの方へ移った。彼氏さん、母とのご対面である。戸惑う彼氏さんと対照的に母はやけに嬉しそうではないか。
こんな病院のロビーでとは思ったが会ってしまったものはしょうがない。私は母に彼氏さんを紹介した。彼は恥ずかしそうに挨拶をすると荷物を置き仕事に戻った。
「優しそうな人で良かった。」と母が言う。48歳の娘がおひとり様でさみしく暮らしていると思っていたのだろう。信頼できるパートナーがいたことを知り、ほっとしたようなそんな安堵の表情が見られた。
さて、診察前にやらなければいけないことがある。血液検査や胸部レントゲンなどだ。病院内を移動するだけでも息が上がる。やはり病気なんだと思い知らされる。
ひと通り検査を終え診察を待った。しばらくして私の番号が呼ばれ、母と一緒に診察室に入る。おとつい救急外来で見た先生が座っていた。
白血病はほぼ確定なのだ。特に緊張はなかった。
「実はあの後顕微鏡でも確認したのですが、白血病でほぼ間違いないと思います。」
とのことだった。なんの驚きもない。
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※血液検査の結果※
白血球 3万5,000(上限値 8,600)
赤血球 310万(下限値 386万)
血小板 2万7,000(下限値 15万8000)
AST 170(上限値 30)
ALT 178(上限値 23)
LD 2824(上限値 222)
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白血球はかなり振り切っている。いっぽう血小板はずいぶん少ない値だ。肝臓の数値は絶望的に高い。肝細胞が壊れ血液に流れ出ている証拠だ。
彼氏さん、内縁の夫になる。
先生はパンフレットを取り出した。表紙には「急性リンパ性白血病」と書いてある。私の病気は白血病の中でも「急性リンパ性白血病」というものらしい。白血病にも種類があることをこの時初めて知った。
先生はパンフレットをもとに、急性リンパ性白血病とはどういう病気なのか、今後どのような治療を行っていくのか丁寧に説明してくれた。「がん」と聞くと生活習慣が良くなかったせいか、ストレスのせいか、とこれまでの自分を振り返るものだが、どうやら私が急性リンパ性白血病にり患したのは「運」らしい。生活習慣や遺伝は関係ないというのだ。運ならしょうがない、とあきらめがついた。
おとついの血液検査でほぼ間違いなく白血病だということは判明したが、確定診断のためには骨髄検査が必要ということだ。その検査でさらに詳しい型がわかる。フィラデルフィア染色体が陰性か陽性か。陽性となると抗がん剤治療だけでは再発のリスクが高いようで、骨髄移植が必要になってくるというのだ。陽性の確率はおよそ4分の1。割合としては少なくない。4分の3側だといいな、と漠然と考えた。
「それで…キーパーソンとなる方は、えっと、彼氏さん?ですかね?」
おとついの救急外来でそれらしい人がいることを話したのだが、関係性がいまいちわからなかったのだろう。先生の言い方は歯に物が挟まったような感じだった。
私が言葉を発する前に母はちょっと苦笑いしながら、
「私、その、彼のこと何も知らなかったものですから・・・」
と言い、ちらっと私を見た。でもどこか嬉しそうな母。
対して、先生は「え!?あ、あ、知らなかっ・・・」と明らかに動揺している。目も泳いでいる。「まずいこと言っちゃった?」という心の声が聞こえてきそうだ。
「大丈夫です。さっき、その、会いましたから。」
ホッとする先生。私は母を見ながら
「落ち着いたら籍も入れるし、内縁の夫ということでいいよね?」
と言ってみた。彼氏さんが治療方針を一緒に聞きたいと言っていたのだ。「彼氏」では何か大事な話の時に呼ばれることはない。万が一の時も病室に入れないだろう。かといって急に籍は入れられない。昨今は事実婚というのも珍しくない。内縁の夫ならキーパーソンになれるはずだ。どさくさに紛れて言ってみた。またも母は嬉しそう。ニコニコしながら頷いた。「やっと良い人が見つかったのね。」と言わんばかりに満面の笑みを浮かべている。
先生もあっさり、「わかりました、内縁の夫ですね。」とパソコンに入力し始めた。
言ったもん勝ちだな。
かくして彼氏さんは内縁の夫に昇格した。
診察が終わり病棟へ上がる。コロナ感染対策のため母は病棟の入口までしか付き添えない。
「がんばって」笑顔で私を見送る母。
「うん」私も笑顔を返した。
ここからは一人だ。「よし」心の中で気合を入れる。私はついに未知の世界へ足を踏み入れた。
続きは次回のブログで
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