2022年12月中旬 寛解導入療法【転倒】

闘病記【発症~治療】

油断大敵!転倒する。

突然の入院から3週間ほど経った。

入院直後は体調が悪く、1週間ほど寝たきりだった。その後リハビリが始まったが、最初は足首や膝の曲げ伸ばし、立ち上がりの練習など簡単な運動で精一杯だった。お腹に水が溜まりパンパンで食事量も少ない。それがだんだんと改善されてきた頃、「一時退院」という目標ができ、リハビリにも力が入るようになった。身体を動かすことに慣れてくると歩く距離が延び、体力がついてきたと感じることができた。

そんな矢先のことである。

やってしまった。過信した。

朝食後のことである。給食は毎食、床頭台に運ばれ、ある程度時間が経ったところで下膳に来てくれる。入院してしばらくすると周りが見えてくるようになった。新参者の私は暗黙のルールらしきものを先輩患者さんから学ぶことが多かった。その一つが下膳ルールだ。窓側のベッドに限るのだが、食事が済んだお盆を床頭台から窓際のでっぱり(↓)に移動させるのだ。下膳する人がカーテンで仕切られた中に入る時には「お下げしてもよろしいでしょうか」などといちいち声をかけなければいけない。お盆が窓際に置いてあればそういった気を遣うこともなく淡々と下膳することができる。おそらくこのルールはお互い気を遣わずに済むというウィンウィン的なものなのだろう、と私なりに解釈した。

窓際のでっぱり部分。食後はこの上にお盆を置いておくのが暗黙のルールだった。このでっぱりの縁におでこをぶつけたと思われる。

この日も朝食を済ませ、お盆を床頭台から窓際へ移動させようとした。そこで私はその窓際のでっぱりにお盆を置く為、少し体をかがめることになるのだが・・・

「ガシャーーーン!」

静まり返った病室にその音は響き渡った。

何が起こったんだ??

気づいた時には私はすでに床に座り込んでいた。記憶がない。ふらついたとか、膝おれしたとか、そういった記憶が全くないのだ。

だが、私は事実、床にしゃがみこんでいる。そして、どうやらおでこをぶつけたようだ。痛みがある。

すごい音がしたものの、お盆はでっぱりの上に綺麗に着地していた。

さて、どうしたものか。立ち上がれない。なかったことにしたいが、頭を打っているとなると申告しないといけないだろう。私は四つん這いでベッドまで戻り、手を伸ばしてナースコールを手繰り寄せた。「ぶるるるる」と呼び出し音。「どうされました?」と看護師の声。「転びました」と小さい声で言うと、看護師が3人、すごい勢いでやってきた。

大事になるのか・・・

「血が出てるよ!」

私を見るや否や看護師が大声で言う。おでこを打ったのは知っていたが、まさか出血までしているとは思わなかった。すぐにバイタル測定が行われ、おでこの処置がなされた。そして出勤前の医師に緊急コール。頭を打った場合、頭部MRIを撮り出血がないか確認すると思ったが、とりあえず様子見となった。

看護師から転倒時の状況を聞かれたのだが、記憶が飛んでいてはっきり覚えていない。なにせ、気づいた時には床の上だったのだ。お盆を置くために少し膝を曲げたが身体を支えきれず、そのまま膝から崩れ落ちたと考えるのが妥当だろう。それにしても想定外だった。足がかなり細くなり筋力が低下している自覚はあったが、転倒するなんて思いもよらなかった。体調もよくなってきていたため、過信していたのも良くなった。

巨大なたんこぶができる。

幸い、血は止まり、治療にも影響はなかったが、血小板がもう少し少なかったら出血が治まらず硬膜下血腫の心配もしないといけなかっただろう。ただ、見た目はかなり痛々しい。おでこにお稲荷さんが埋まっているのかと思うほど腫れあがった。その大きさは笑えるレベルだ。

転倒をすると、看護師さんたちの仕事が増える。数時間おきにバイタル測定をすることはもちろん、転倒原因や再発防止策をも盛り込んだ報告書を作成しないといけない(おそらく)。移動時はスリッパではなく運動靴をはくように、と注意を受けた。そして転倒して数日は付き添いなしの歩行を禁止された。

筋力が落ちるのはあっという間なのに、戻すのはその倍、いや何倍もの時間がかかる。この転倒を機に、私は「以前の私とは違うんだ」という意識を持つようになり、「無理をしない、過信しない、慎重に動く」癖がついた。

さらに一時退院中の課題も見えてきた。彼氏さんの部屋にはベッドがない。転倒したことで、布団からの立ち上がりができるのだろうか、という不安が湧いてきた。それをリハビリの先生に伝え、すぐに床からの立ち上がり練習がメニューに加わった。これがびっくりするくらいできない。

一度、床に落としたゴミを拾おうと、うっかりしゃがんでしまったことがあるが、そこから全く立ち上がれなくてジタバタしたことがあった。近くにいたおじさん二人が心配そうに見守る中、両手で身体を支えられる場所までしゃがんだまま移動し、渾身の力を振り絞って立ち上がった。おじさん達から「おーーー!」と歓声が上がった。かなり恥ずかしい思いをしたが、この時も自分の筋力のなさを思い知らされた。

趣味の登山。再開はかなり先になるな・・・

目標は高いほうがいいのかもしれない。だが、治療は始まったばかり。焦ってもしょうがない。先のことよりも今が大切だ。まずは年末年始の一時退院が目標だ。その時に何をしたいか、何が食べたいかを考えた。そんなささいな事が生きる力になる。励みになるのだ。

ひとまず転倒は二度とごめんだ。暗黙のルールはあくまで自然発生的に生まれたルール。安心安全であることが一番、というわけで、その日からお盆は下膳に来てくれるまで床頭台に置いておくことにした。

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