短い一時退院
1クール目が無事に終了した。23日間の入院だった。最初の入院は37日間。それと比べると今回はだいぶ短いが、それでもやはり、「長かった」と感じる。
退院前に「私は本当に退院するのだろうか。」という気持ちになった。最初の入院の時もそう思った。これだけ退院したいと願っているのに、退院している自分を想像できないのだ。この妙な感覚を今後も味わうのだろうか。
2クール目の入院日はすでに決まっている。一時退院できる期間はわずか6日だ。前回は2週間あったが、それでもあっという間に過ぎてしまった。6日なんて一瞬だ。食べたいもの、やりたいこと、会いたい人。限られた時間に予定を詰め込んだ。
※検査結果※
| 1クール目 入院時 | 抗がん剤投与 終了8日後 | 1クール目 退院時 | 基準値 |
白血球 | 3,600 | 480 | 6,120 | 3,300~8,600 |
赤血球 | 215万 | 294万 | 259万 | 386万~492万 |
ヘモグロビン | 7.0 | 9.3 | 8.1 | 11.6~14.8 |
血小板 | 23万4,000 | 3万2,000 | 29万8,000 | 15万8,000~34万8,000 |
身体中の関節が痛くなる
前回の一時退院中は頭痛に悩まされた。そのせいで思うように動けず、寝たり起きたりの繰り返しだった。
今回は自由を思う存分満喫したい。
そう切に願っていたのだが、現実はなかなか厳しいものだ。実は、退院の数日前からなんとなくだが、身体を動かす時にわずかな痛みを覚えていた。その痛みは膝だったり、指だったりと場所を限定しない。とはいえ、入院中はそれほど気にならなかったため、医師にも看護師にも伝えなかった。
それが退院してすぐに苦痛を伴うほどに悪化した。
動き始める時が特に痛い。
布団から立ち上がる時に手をつく。
「痛い!」と声が出る。
痛みで身体を支えることができないため、膝をつくことにする。今度は膝が痛い。それでもなんとか手と膝に痛みを分散させて立ち上がる。そんな苦痛を毎回味わなければ立ち上がれない。トイレ行くのもおっくうになる。
歩くのも一苦労だ。かかとが地面に着くたびに痛みが走る。クッション性の高い靴を選んでも結果は同じだった。見た目もぎこちないようで、「歩き方がおばあさんみたい」と言われた。
指の関節の痛みは寝起きが一番ひどい。リウマチと似たような症状だ。朝一のこわばりが顕著で、指を動かしにくい。そのような症状は起きてしばらくするとなくなるのだが、関節の痛みは常にある。痛くてペットボトルの蓋を開けることもできない。フライパンやお皿を持つだけで痛みが走るため、料理をするのも大変だ。
抗がん剤の副作用なのだろうか。
入院中に確認しておけばよかったと後悔した。前回の退院時も頭に違和感がありながら申告せず退院し、症状が悪化して不安な日々を過ごした。あの時、少しでも身体に異変があれば医師に相談しようと決めたのに同じ失敗を繰り返した。目の前に退院という二文字がぶらさがっていると、どうしても申告するのをためらってしまう。
鎮痛剤を飲んでもほとんど効果はみられなかった。
久しぶりの外出
11月のある日、がんだと告知された。上司とは直接会って話をすることができたが、部下たちには何も言わず入院してしまった。みんなが知ったのは入院から1か月も経ってからだ。そしてそれからさらに1か月以上が経過している。気を使ってなのか連絡をしてくる人は少なかった。
入院直前に異動になったとはいえ、3年間一緒に仕事をしてきた仲間だ。みんなの顔が見たかった。それにせっかく退院したのに家で寝てばかりいてはもったいない。
よし、職場に遊びに行こう。
身体のあちこちが痛いということを除けば、数時間は椅子に座っていられるし、バス停まで歩くこともできる。私は久しぶりに職場に行くことにした。
職場に顔を出すと、みんな笑顔で私を迎え入れてくれた。知り合いが白血病だったという職員からは「大丈夫ですよ、白血病は今は治る病気ですよ。その人も骨髄移植を受けて今は元気に働いていますよ。」と励まされた。
私の場合は難治性のフィラデルフィア染色体陽性の白血病だ。その人がどうだったかはわからない。それでも私のためを思って勇気づけてくれたことは純粋に嬉しかった。
短時間で何人もの人と話をした。疲れなかったと言えばうそになるが、良い気分転換になった。
楽しかった。
嬉しかった。
私の心は満たされた。相変わらず身体は痛かったが、多少無理をしてでも外出して本当に良かったと思えた。
一人で外出するのは3か月ぶりだった。そして、家族以外と話をすることも久しぶりだった。全てが新鮮に感じた。これまでの日常が非日常になり、入院生活が日常になっているという現実。
あと数日でまた入院。私はまたあの巨大な白い建物の中に閉じ込められるのだ。
早く’日常’を取り戻したい。
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