関節痛が治る
1クール目の退院間際に肘やかかとに痛みが現れた。それはわずかな痛みで、気にしなければ忘れてしまう程度だったため、医師には何も言わず退院をした。
前回の退院時は頭痛に悩まされ、思うように動けなかった。今回の退院期間はわずか6日。短い仮退院を満喫したいと思っていたのだが、退院するとすぐに症状が悪化し、痛みがありとあらゆる関節に広がった。せっかくの仮退院は痛みで台無しになった。
2クール目の入院時に医師に関節痛のことを伝えると、白血球が思いのほか増加したためだろう、と言われた。
白血球が落ち着けば痛みもなくなるということか。
日にち薬かとあきらめていた矢先のことだ。抗がん剤が投与され、数日もすると痛みが急に和らいだ。まるで特効薬でも飲んだかのように、本当に急に症状が緩和されたのだ。歩くたびに痛かったかかとも、こわばって曲げにくかった指も何ともない。
自分の中で落ち込んでいたという実感はなかったが、痛みが治まってきたのがわかると気持ちが途端に明るくなった。
健康というのは人の精神状態をかなり左右するものだと改めて感じた。
それにしても、こんなにも急に痛みがなくなるものなのだろうか。確かに高かった白血球の数値は数日で基準値まで下がったのだが、どうも腑に落ちない。
医師を信用していないわけではない。ただ、あまりに急に痛みが治まったことが逆に不安をあおった。
「関節の痛みが急に良くなったんだけど、白血球の数値が影響してるんですか。抗がん剤を投与すると治るとか?」
私はバイタル測定をしにきた看護師に聞いてみた。
何かを質問した時に返ってくる答えは看護師によってまちまちだ。医師に報告する人、差しさわりのないことを言ってうやむやにする人、医師に聞いてくださいと言う人。今回聞いたのは50代の看護師で、知識も経験も他の看護師より豊富だ。いつも的確な答えをくれる。
その看護師の見解はこうだ。
最初の入院でプレドニンというステロイド剤を飲み始めた。そして退院に向けて少しずつ量を減らし、最終的には中止となった。ステロイドは通常、副腎皮質で作られるものだが、人工的にステロイドを入れると、副腎皮質が「作らなくてもいいんだ」と勘違いしてしまう。そうすると服用を中止した後ステロイドが足りなくなり、ホルモンバランスが崩れ、リウマチのような症状が現れることがある。今回の入院でプレドニンは服用していないが、点滴でステロイドを入れたことにより、ホルモンバランスが戻り、痛みが軽減された可能性がある。
なるほど・・・
「徐々に戻っていくと思いますよ。」
不安そうにしている私を励ますように看護師は笑顔でそう付け加えた。
私はこの看護師の説明に妙に納得し、そして安心した。
その後、この仮説を裏付ける出来事があった。
2クール目の抗がん剤は2サイクル行う。2サイクル目は2週間後に行うのだが、その頃にまた関節が痛み出した。1サイクル目で投与されたステロイドの効果が薄らいだのだろう。そして2サイクル目の抗がん剤が投与されると、数日後にはまた痛みがなくなった。ステロイドも一緒に投与されたはずだから、ホルモンバランスが再度整ったと考えるのが妥当ではないか。
「痛みが続くようなら一度リウマチの検査をしてみましょう。」
と医師は言っていたが、私の中でこの「ステロイド説」がかなり有力なため、検査の必要はないだろうと思っている。
脱毛しない
抗がん剤の副作用でまっさきに思い浮かぶのは吐き気と脱毛ではないだろうか。1クール目のキロサイドでは吐き気は全くなかった。今回のメトトレキサートでも胃腸への影響はなく、給食もほとんど残すことがない。
脱毛は抗がん剤の種類に左右されるようだ。キロサイドの時は投与後3週間くらいすると急に抜け始め、1週間程度すると落ち着いた。見た目はそれほど変化がなく、他人から見たらわからない程度だ。
医師から、今回も抜けると思います、と言われたため医療用の帽子は用意してある。インターネットで調べると、メトトレキサートは髪の毛の量が減り、頭皮が見えるという「中等度」に分類されている。
だが、しかし・・・
いっこうに毛が抜けない。抜けてほしいわけではないが、肩透かしを食ったような気持ちになった。
「毛が丈夫なんですかね。」
医師は首をかしげてそう言い、
「でも、移植をするとかならず抜けますから。」
と続けた。移植は夏ごろまでに行う予定だ。それまで脱毛しない可能性があるなら、次の退院時に美容院に行って坊主にしてもらおう。一度坊主にしてみたかった私にとって、脱毛はまったく気にならなかった。それどころか、坊主になれるチャンスだとばかりに、その日からワクワクしながらピンタレストで坊主頭を検索した。
口内炎
メトトレキサートの副作用の一つに口内炎がある。それを予防するため、投与中は両あごに冷えピタを貼り、氷を舐め続けた。
それでも投与終了から2、3日すると喉や舌の付け根が痛くなった。風邪をひいた時のようにつばを飲み込むと痛みを感じる。
症状は軽かったが、少しでも異変があれば教えてほしいと看護師から言われていたため、我慢するのはやめた。午前中に伝えて、午後にはアズノールうがい液が処方された。うがいを始めると数日で痛みがなくなった。
結局脱毛することはなく、この口内炎だけが唯一の副作用だった。
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