食べられない
今日で放射線照射は3日目。最終日だ。
1日目の夕方には耳の下辺りが痛くなり熱感もあった。
2日目には食欲がなくなり、果物やゼリーしか受け付けなくなった。
3日目の朝。
一昨日の夕方から両あごに冷えピタを貼っていたため、耳の下の痛みはずいぶん軽くなっていた。だが食欲は相変わらずない。そして食べていないのに体重は51.5㎏と昨日より増えていた。
指や顔を見るとよくわかる。明らかにむくんでいる。昨晩も利尿剤を使ったが、体重が減っていないということで、また利尿剤が投与された。
食欲は昨日よりさらに減退していた。朝ごはんはゼリーのみだ。昼ごはんは差し入れしてもらったコンビニのパイナップルを食べた。とにかく温かい物は受けつけない。
やはり栄養士に相談して給食の内容を変えてもらおう。
看護師にそのことを伝えるとすぐに栄養士が病室に来てくれた。
これまでも食事が食べられない時は相談に乗ってもらってきた。自分から要望を伝える時もあればアドバイスをもらう時もある。一度決めたら終わりではなく、後日どうだったか聞きに来てくれる。うまくいけば継続し、改善されなければ再度内容を検討する。かなり細かい要望にも応じてくれるので助かっている。
今回は食事形態や量ではなく、何なら食べられるのかという点に絞って知恵を出し合った。
結果、朝食は当面欠食。昼食は冷たい麺類、果物、高カロリーのアイスクリーム。夕食も冷たい麺類と高カロリーのゼリーという内容に落ち着いた。
アイスクリームは明治から出ているメイバランスという商品で、味はバニラ、チョコ、ストロベリーから選べる。闘病仲間からバニラが一番おいしいと聞いていたため、私もバニラをリクエストした。
高カロリーのゼリーはミニタスというもので、25gで100キロカロリー摂れる。最近になって取り扱いを始めたらしく、味も良いと栄養士が勧めたため、試してみることにした。なんといって25gという量がいい。ほかの高カロリーゼリーよりかなり量が少ないのに100キロカロリーあるのだ。食欲がない私にはぴったりだと思った。
夕飯はリクエスト通り、冷たいうどんと高カロリーゼリーが提供された。
うどんなら食べられるだろうと思ったが、全く食べられなかった。これほどまでに食欲がないとは自分でも驚きだ。
栄養士お勧めのゼリーに手を付けた。25gは確かに少量だ。一口大よりも少ないのではないかというくらいの超ミニサイズ。
一口食べてみた。
味は良い。だが、それ以上箸が進まない。
この量が食べられないのか。
放射線は目に見えるわけでもなく、何か感じるわけでもない。本当に当たっているのかな、という感じだった。副作用も軽いんじゃないかな、と高をくくっていたが大間違いだ。
放射線の副作用はこれまでの化学療法の比ではなかった。
ドナーは20代!
食べていないのにお腹はまったく空かない。
身体もだるい。
気が滅入りそうだ。
唯一良かったのは、CV挿入後の首の痛みがだいぶ軽くなったことくらいだ。寝たり起きたりするのがずいぶん楽になった。
憂鬱な気持ちでベッドに横になっていると、看護師が夜のバイタル測定にやってきた。私の担当看護師だ。
「放射線、終わりましたね。あ、そういえば、ドナーさん、20代の男性なんですね。」
え???
「20代なんですか?!」
先週、医師から聞かされたのは男性ということだけだった。それに3月頃、その医師が40代の男性で決まりそうだと言っていたため、勝手にドナーはその人だと思っていた。
骨髄バンクに登録すれば必ずドナーが見つかるというわけでない。私は運よくすぐにフルマッチする人が見つかり、調整もスムーズに進んだ。相手の年齢や性別などというのはどうでもよい。移植が受けられるだけでもありがたいことなのだ。それに、ドナーが若いからと言って移植後の予後が有意に良いということはない。
それなのに、20代と聞いてテンションが上がってしまった私。ドナー登録している方々に申し訳ないことだと後から反省した。
私と看護師は、その20代のドナーさんがいかに立派かを語った。自分が20代の頃、骨髄バンクに登録しようなどと思ったことは一度もない。というか、バンクの存在すら知らなかった。献血は一度くらいしたかもしれないが、誰かのために何か特別なアクションを起こそうという気持ちは持ち合わせていなかった。
「そんな若いのにドナーになるなんて、何かあったんでしょうか。赤の他人なのにね。本当、感謝しても仕切れないですよね。」
話しているうちに感情が高ぶり、目頭が熱くなった。
ドナーもリスクを背負う。まれに死に至ることもある。それを承知でどこの誰とも知らない他人のために骨髄液を提供してくれるのだ。
無駄にはできない。
必ず病気に打ち勝つ!
私は改めて気持ちを引き締めた。
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