day3 胸のつかえ感と唾液の減少
移植が終わって3日目。体調に大きな変化はない。これは決して体調が安定しているというわけではなく、昨日と同じように食欲不振と下痢が続き、ほぼ寝たきりであるということだ。
それに加えて今朝から気になることがある。
胸のつかえ感だ。時々、それは何の前触れもなくやってくる。そして数十秒続いた後、パタッと治まる。その間は苦しくて、胸に手を当てながらじっとしていなければならない。
看護師にそれを報告した。
どうやらこれは放射線の影響らしい。放射線が終わって1週間が経つ。倦怠感や食欲不振がすぐに現れたため、もう他の副作用は出ないと思っていた。
この胸のつかえ感は喉が荒れるのと同じ現象だという。つまり放射線で食道が荒れたということだ。
副作用が一つ追加されたことで食欲はますますなくなった。
朝食も昼食も何も食べられなかったが、薬だけは飲まないといけないと思い、パウチゼリーで喉の奥に流し込んだ。
そして変化があったのは胸のつかえだけではなかった。それに気づいたのは彼氏さんと電話をしていた時だ。
個室ということもあり、いつも1時間以上話をしている。この日も例にもれず長電話になった。
話をしているとすぐに口の中が乾いた。ジュースやお茶を飲むのだが、またすぐに飲みたくなる。それは単に喉が渇いたなーと思って水分補給をするのとは違うものだった。
飲んでも飲んでも一向に解消されない異常なまでの口の乾き。
電話を切って改めてその症状と向き合った。
やはりこれは普通ではない。
そしてさらに普通でなかったことは、唾液が経験したことないくらいネバネバ、もっというならドロドロとしていたことだ。あまりにドロドロし過ぎて飲み込めないことがある。そんな時はティッシュペーパーに唾液を吐き出すのだが、またすぐに粘着質な唾液が口の中に溜まる。
これも放射線の影響だろう。
唾液の分泌量が減ったのだ。味覚障害もこれのせいだろうか。
口の中のトラブルはダイレクトに食事量に影響を与える。結局夕食も何も食べられなかった。
看護師によれば、点滴から800キロカロリーの栄養を入れているので、食べられなくてもひとまずは大丈夫とのことだ。
骨髄移植が終わりホッとしたのもつかの間だった。こんなにも副作用に悩まされるとは。
あれ、そういえば、主治医が前処置の前に言ってたよな。副作用は千差万別だが、私は大丈夫な気がすると。
全然大丈夫じゃないじゃないか。
いや、待てよ。個人的にひどい副作用だと思っているだけで、実は他の人より症状が軽いのか。
確かに、一足先に自家移植を受けた知人から送られてくる写真を見ると、私の方がましだと言える。彼女も下痢、口内炎、食欲不振という副作用に悩まされているようだが、その程度が私よりひどい。
みんな通る道なのだろう。
乗り越えられる。
時間が解決するはずだ。
そう自分に言い聞かせた。
※血液検査の結果※
| 骨髄移植前日 | day3※ | 基準値 |
白血球 | 490 | 80 | 3,300~8,600 |
赤血球 | 221万 | 343万 | 386万~492万 |
ヘモグロビン | 6.9 | 10.5 | 11.6~14.8 |
血小板 | 12万7,000 | 2万5,000 | 15万8,000~34万8,000 |
day4 食べられない
目が覚めた。昨日との違いを確認する。願わくば副作用が多少でも軽くなっていないかと期待したが、そんなのは夢物語だとすぐにわかった。
下痢も食欲不振も、昨日から追加された口の中の乾燥も健在だった。
症状が悪化していないだけましだと思わないとやってられない。
朝のバイタル測定の時、看護師から今が副作用のピークだということを聞いた。ただ、そのピークがどれくらい続くのかはわからない。今白血球の数はほぼゼロだ。免疫力はないに等しい。
耐えるしかない。
ご飯は相変わらず食べていない。何か食べないとな、と思い、食べられそうなものを必死に考えた。看護師に他の人は何を食べているのか聞いたが、答えは人それぞれ、という曖昧なものだった。毎食シュークリームを食べ続けた人もいるという。隣の部屋の友人はアイスクリームを頑張って食べていると言っていた。
人それぞれか。私はまた考えた。温かいものは気持ちが悪い。冷たくても、冷やしたぬき蕎麦のような醬油ベースのものは味覚がおかしくて不味いと感じる。
サンドイッチはどうだろう。食べられるかもしれない。
そう思い、午後から面会に来る弟にサンドイッチを買ってきてくれるよう頼んだ。
弟に会うのは4か月ぶりだ。前回会ったのは、白血球の検査のため隣県から病院まで来てくれた時だ。これまで弟と連絡を取り合ったり、しっかり話をしたりしたことがなかったように思う。異性の兄弟とはそんなものなのかもしれない。それが骨髄移植のことを話したら、ドナーになることを二つ返事で引き受けてくれた。結果は白血球の型がマッチしなかったのだが、今でも感謝している。
午後2時ごろ、サンドイッチを片手に弟が病室に入ってきた。小さい子供は面会できないため、車に奥さんと子供を残して1人でやってきた。
1対1で何を話せばよいのか、という不安はすぐに払しょくされた。寡黙だと思っていた弟はずっと自分の将来について語っていた。気づけば30分も経っていた。規定は15分以内なのだが。
弟がいる間はベッドの上で座って話を聞いていた。こんなに長く体を起こしていたのは久しぶりだ。
さすがにしんどくなり、弟が帰った後はすぐに横になり休んだ。
その影響か、買ってきてもらったサンドイッチを食べる気にはなれず、夕食はわずかなゼリーを口にして終了した。
下血!?
夕食後、お腹が痛くなりトイレに行った。用を済ませて立ち上がり、何気に便器を見ると、便に赤いものが付着していることに気づいた。
え?下血??
これも副作用なのか。
びっくりしてトイレにあるナースコールを押した。
普段押さない場所からナースコールがあったせいか、看護師が二人飛んできた。転倒でもしたと思ったのだろう。
とりあえず転倒ではない旨を伝え、出血したことを報告した。
検査したところ、やはりその赤いものは血だということが判明した。口の中や食道の粘膜がやられているのだ。腸の粘膜も荒れている可能性はある。
まだまだ副作用が出てきそうだな。
そう覚悟してベッドに入った。
その晩何度かトイレに行ったが下血はなかった。一安心だ。
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