2023年8月　退院後の生活【もう限界です】

もう何もできない

７月最後の診察で、口当たりの良いものを食べてくださいと医師から言われた。

もうとっくにそうしている。

今現在食べられるものはパウチゼリー、お粥、ヨーグルトくらいだ。といっても１回で一人前の量が食べられるわけではない。例えばパウチゼリーは１日かけても１パック飲めない。お粥は数口でお腹いっぱいになる。

どんどん摂取量が減っていく。

１日で摂れているカロリーは今や３００キロカロリーにも満たないだろう。

当然体重は減っていく。もともと５１㎏前後だった体重は骨髄移植後に45㎏程度まで落ち込んだ。予定では退院したら美味しいものをいっぱい食べ、50㎏ぐらいまではすぐ戻る見込みだった。

それがどうだろう、現在43㎏を切ろうとしている。

危機的な状況であることは火を見るよりも明らかだ。

トイレとシャワー以外、身体を起こすことができない。トイレの帰りに洗濯機のスイッチを押すことくらいはできるが、それを干すことができないから、結局、いつ洗い終わったかわからない洗濯物を彼氏さんが仕事から帰ってきて干している。

買い物はもう行っていない。スーパーでカートに身体を預けたとしても歩けないからだ。食材を買ったところで料理はできないので特に不便は感じない。ただ、コンビニ弁当やスーパーの総菜を買って帰ってくる彼氏さんに対して申し訳ないという気持ちはある。

私は1日中、ベッドで横になり、何を考えるというわけでもなく天井を見て過ごした。

ここまで来ると回復していくとは到底思えない。

このまま死んでしまうのではないか、という気持ちもうっすらではあるが心の奥の方にある。

それにしてもどうしてこんなにも倦怠感が酷いのだろう。胃腸に明らかなＧＶＨＤの症状が見られないのに、どうしてこんなにも食べられないのだろう。

例えば入院をしたとして、何をどう治療するというのだ。再入院という手もあると言われたが、果たして入院して何か変わるのだろうか。

とはいえ、このままでいいはずがない。

体重もついに42㎏になった。もう限界だ。自力で回復していくことは無理だと確信した。

次の診察で入院について医師に相談しよう。

再入院決定

1週間ぶりの受診。今日も父親の運転だ。道中、体調を聞かれたがさすがに大丈夫とも言えず、現状を説明した。特別驚いたような様子はなく「そうか」と一言だけ返事が返ってきた。娘が心配にならないのかと思うくらい感情の起伏がない人だ。心の中は計り知れないが。

病院までは車で15分程度。すぐに着いた。

前回と同様、玄関先で車いすを借りた。数メートルも歩けない状態なのだからしょうがない。

まずは血液検査だ。ここでだいたい1時間は待たされる。体調が良ければ小説を読んだりネットサーフィンをして時間をつぶすところだが、今の私にはそれができない。目をつむり、ただひたすら番号が呼ばれるのを待った。

長い、いつも以上に長く感じる。1時間腰かけていることがこんなに辛いなんて今まであっただろうか。待合室は立っている人もいるくらい混雑している。当然横になるスペースはない。

受付で頼めばベッドで待つこともできるのだろう。でも、とりあえず我慢した。なかなか弱音を吐けない損な性格だ。

やっと番号が呼ばれ車いすで採血室に入っていった。

採血台で車いすから普通の椅子に移り、腕を差し出した。すると看護師が「ベッドで横になって採血しますか。」と提案してきた。

これまで一度もそんなことを言われたことはなかった。事務的に採血しているようにみえて、ちゃんと患者のことを観察しているのだと驚いた。

そして感動した。

横になりたいと口元まで出かかっていたのを無理やりに飲み込んだ矢先に言われたのだ。あまりの嬉しさにすぐに言葉が出て来ず看護師を凝視してしまった。

そうなんです。横になりたかったんです。声をかけてくれてありがとう。

「はい、横に慣れるなら、その方がありがたいです。」

感情を抑えながら控えめに言った。

採血が終わると普段は内科の待合室に移動し診察を待つのだが、一度横になった体はもう座位に耐えられそうにない。車いすで内科の処置室というところに連れて行ってもらい、ベッドで寝て待つことにした。

しばらく横になっていると、ふいにカーテンが開いた。主治医だった。看護師から聞いて診察前に私の様子を見に来たようだ。

一言目が「入院しようか。」だった。

私は間髪入れず「はい」とうなずいた。何の抵抗もなく入院を受け入れた。そう言って欲しかったのだろう。

二度と入院したくないと思って退院したけど、今は早く入院して楽になりたいと思う。

もう頑張らなくていいんだ。

必死に食べ物を口に押し込み、それでも数口しか食べられず絶望を味わう毎日。何をするにもしんどくて、生きている意味を見失いそうになっていたのも事実。退院できても元気じゃなきゃ意味がないんだ。

やっと入院が決まり、張りつめていた糸がプツンと切れ、妙に吹っ切れた自分がいた。

よし、入院してさっさと治そう。

急に前向きになった。

さっそく彼氏さんにも報告した。彼は私の状態があまりに悪いので不安で不安でしょうがなかったという。入院の話をしたらさらに心配をしていたが、検査の結果が悪かったわけではなく、体調を整えるためだと説明をしたら安心したようで、良くなったら宴会しようと励ましてくれた。

そうだ、良くなっていろいろやりたいことがあるんだ。

再入院は後退じゃない。前進だ。

きっと良くなる。だから前進なんだ。

そう思い、病院を後にした。入院は2日後に決まった。

※血液検査の結果※

	退院 1週間後	退院 5週間後	基準値
白血球	5,770	5,470	3,300～8,600
赤血球	535万	315万	386万～492万
ヘモグロビン	10.9	10.0	11.6～14.8
血小板	9万	6万3,000	15万8,000～34万8,000
網赤血球	1.08	0.71	0.3～1.1％