アイクルシグ再開
骨髄移植の前処置が始まると同時にアイクルシグ(抗がん剤)の服用が中止となった。5月下旬のことである。
それから4か月、アイクルシグは飲んでいなかった。
9月下旬の受診でそれが再開された。骨髄移植が終わっても再発のリスクは十分ある。当分は抗がん剤を飲み続けることになるという。
今回の処方では月、水、金の週3回だけだ。
免疫抑制剤であるプログラフは1日4回と変わりない。
それにしても、アイクルシグはびっくりするほど高価だ。
たったの一錠でおよそ6,500円もする。3割負担でも一錠2,000円という高さだ。これを当分飲み続けるとなると1か月の医療費はもろもろ合わせて8万弱くらいになるだろう。これは高額療養費の上限を超えない絶妙な金額だ。上限を3回超えれば4回目から半額程度に下がるのだが、それに当てはまらないとなると、毎月8万円近い医療費を払い続けなければならない。今は傷病手当金をもらっているのでいいが、これがなくなったらガッツリ働かないと生活できない。何とも世知辛い話ではないか。
でもしばらくは飲み続けないと再発リスクが上がる。
命には代えられない。
毎月8万円で命がつながると思えば安いものか。
血液検査の結果も問題なかった。それに元気だ。毎日2,3㎞散歩をしているし、何でも食べられる。お金のことより、そうやって普通の生活が送れることの方が重要だと割り切るしかない。
久しぶりのお酒
元気になると人間欲が出る。
診察では気になっていた「あれ」について医師に聞いてみた。
病気になる前、私はアルコール依存症ではないかというくらい毎晩ビールを飲んでいた。習慣飲酒というものだろう。1日我慢して飲まなければ1週間、1か月と禁酒することもできるのだが、その1日が我慢できない。よって365日のうち360日はアルコール除菌などと称してビールを飲んでいた。飲まなかった日というのは単に二日酔いで飲めなかっただけだ。
昨年の11月に体調がすこぶる悪くなり、その頃から一滴もビールを口にしていない。我慢していたわけでもなく、単に飲みたいと思わなかったからだ。たとえ飲みたかったとしても、さすがに治療中にお酒を飲むことはなかったと思う。
それが最近、飲んでみたいという気持ちが強くなってきた。目の前でおいしそうにビールを飲む彼氏さんに感化されたのかもしれない。いずれにしても元気になった証拠だ。
私は主治医にお酒を飲んでもよいか聞いた。
「まぁ、ダメとは言わないです。酔わない程度に飲むなら、多少はいいでしょう。」
というちょっと歯に物が詰まったような言い方ではあったが、飲んでもよいと許可が下りた。
「〇〇先生だったら絶対許可しないでしょうけどね。」
と付けたしがあった。〇〇先生は自分がお酒を飲まないので患者も飲む必要はないと思っている人で、絶対飲酒を許可しないのだそうだ。
このことに限らず、医師によって見解が違うことはよくある。そういう意味では当たり外れがあるな、と思った。
「では、嗜む程度に飲みます。」
と私は飲みます宣言をした。
「その嗜むというのがくせ者ですけどね。」
すかさず医師はチクリと嫌味を言った。でもそんなことはどうでもよい。許可さえもらえたらいいのだ。
さっそくビールを買って帰った私は、にんまりしながらそれを冷蔵庫の奥の方に押し込んだ。よく冷える気がしたのだ。
そして夕飯の時、キンキンに冷えたビールを、これまたキンキンに冷えたグラスに注いで乾杯をした。
11か月ぶりのおビール。
生唾を飲み込んだ。
「いただきます。」
と言って、まず泡を口の中に含んだ。
ん?こんな味だったか?
次に一口、二口とビールを流し込んだ。
まずくはない。
でも、おいしくもない。
ビールがおいしくないなどということが今の今まで一度でもあっただろうか。もちろん、ない。
もう一口飲んでみた。やはりおいしくない。
ご飯はおいしく食べられる。味覚障害はもうないはずだ。それなのに、なぜだ。ビールだけがおいしくないなんて。
これはショックだった。結局グラス半分ほどで終了。残りは彼氏さんの胃袋におさまった。
それにしても、ビールだけがおいしく感じないということがあり得るのだろうか。
理由はわからない。
また飲んでみよう。それでもおいしくないならもう飲まなければよいだけのことだ。タバコと同じでお酒も百害あって一利なし、と思えば飲めない方が良いのかもしれない。
コメント