1回目は抜けが悪かった
2クール目の抗がん剤はメトトレキサートだ。
1クール目で使用されたキロサイドは投与終了後は特に何もやることはなく、血球の値が安定するのを待って退院した。
今回のメトトレキサートは多少勝手が違う。投与期間は1日だけだが、その後6時間おきに尿のpH検査を行い、酸性だった場合はアルカリ性になるよう薬剤を投与する。それはメトトレキサートの血中濃度が0.01以下になるまで続く。
予定では3日で0.01以下になり、面倒な尿検査から解放されるはずだった。だが、最終日の検査結果は0.17。基準値を超えていた。
「抜けが悪いですね。」
と言われた。抜けが悪いと臓器へ影響が出てくる可能性があるそうだ。0.01以下に下がったのはそれから2日後だった。抜けが悪いからといって私自身が何か感じるわけではない。辛かったのは6時間おきの尿検査だった。これのせいで寝不足になり、生活のリズムが崩れた。メトトレキサートは1クールで2回投与される。ということは、もう一度同じことをしなければいけない。
2回目も抜けが悪かったらどうしよう。
2回目は半量で
「今日でいったん点滴は終了です。」
1回目の投与が終了してから12日目の朝、そう告げられた。どこに行くにも点滴スタンドと一緒というのは自由を奪われたような気持ちになりかなり憂鬱だ。それがないというのがどれだけ楽かは最初の入院で経験して知っている。
といっても、2日後には2回目のメトトレキサートが投与される。ということは、また点滴スタンドにつながれる。もっと早くメトトレキサートが抜けていたらよかったのに、と思った。
その日の夕方、医師が体調確認のため病室にやってきた。体調は良かった。口内炎やのどの痛みもすっかり良くなり、倦怠感もない。強いて言えば、治ったと思っていた関節痛がまた出てきたということくらいだ。2回目もステロイド剤が投与されるはず。そうすればホルモンバランスが戻り、痛みも治まるだろう。医師も関節痛についてはあまり心配していない様子だった。
「2回目のメトトレキサートですが、前回抜けが悪かったので、量を半分にします。」
そうだ。そちらのほうが問題なのだ。前回のように3日経っても基準値を下回らないと尿検査が延長される。深夜0時の尿採取は本当に辛い。
私はほっと胸をなでおろした。
予定通りメトトレキサートが抜ければ尿検査も3日で終わるし、点滴からも早めに解放される。
半量で効果も半減?
2回目のメトトレキサートは1回目の半分の量。それなら抜けも早いと安心していた私だったが、疑問が一つ湧いた。
半量ということは、効果も半減するのではないか。
前回の入院時にまだがん細胞が残っていると言われたこともあいまって、不安は増幅する一方だ。医師が言うのだから半量でも大丈夫に違いないと思うのだが、どうしても不安を払拭することができない。私は意を決して医師に聞いてみた。
「先生、半量にしたら効果も半分になるということはないですか。」
医師にとっては愚問なのかもしれないが、疑問に思ったことは何でも聞いてくださいと言われているのだ。問題ないだろう。
「メトトレキサートの抜けが悪いと臓器に影響を及ぼしかねません。身体の安全を優先させないといけないんです。」
素人の私には、メトトレキサートが体内に残っているとどれだけ臓器にダメージを与えるのかわからない。薬はどれもそうだろうが、効果と副作用は表裏一体ということだろう。天秤にかけて、メトトレキサートを半量にするという方が選択されたのだ。
効果が半分になるともならないとも言われなかった。結果論ということかもしれない。
治療の効果は一律ではない。同じ量を投与しても人によって効く、効かないがある。それと同じことだ。
半量にした理由がわかり、私は不安なく2回目の投与に臨むことができた。
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