2022年11月4週目 日曜日【入院まで猶予1日】

闘病記【発症~治療】

入院の準備をする。

自分は病気にならないと思っていた。根拠はない。だけど自信があった。昨日までは。

土曜日に耳鼻科を受診し、「血液の病気かも」と言われ、その足で紹介状を持って総合病院の救急外来へ行った。そして血液内科という私には馴染みのない科の先生が出てきて、「白血病の可能性が高いです。」、「月曜日に入院してすぐ治療を開始します。」そう言われたのだ。

展開が早すぎる。というか、それくらい私の状態は悪かったのだろう。

猶予は今日1日だけだ。明日から私は未知の世界へ足を踏み入れる。

今日私がやらなければいけないことは2つだ。

1つは母親に言うこと。
もう1つは入院の準備をすること。

母に伝える。

それは本当に胸が痛いことだ。悲しませることがわかっているからだ。自分の子が白血病だと聞いて母は何と思うだろうか。受け入れられるだろうか。

気が重い…

それでも考えている時間はない。私は母に電話をした。まだ何も知らない母に。

呼び出し音が耳に響く。ドキドキしていた。まるで何かいけないことを告白するかのようだ。

「はい」

いつもと変わらない母の声。

私はまず最近体調が悪かったことを話し、「白血病みたいで、明日から入院することになった。」と矢継ぎ早に伝えた。

なるべく簡潔に、そしていつも通りの声でさらっと伝えた。

「そうなんだ。わかったよ。」

母もさらっと答えた。白血病って癌なんだけどわかっているのかな。こちらが不安になるくらい母の反応は’普通’だった。それと同時に多少ホッとした。取り乱したりされたら私もどうしていいかわからなくなる。

いや、もしかしたら電話を切った後、母は一人で泣いていたかもしれない。私に気を遣わせないように。

心が痛んだ。

私は一つ目の大仕事を終え、大きくため息をついた。次は入院の準備だ。

彼氏さんの運転で久しぶりに自分のアパートに行った。2週間ぶりだろうか。なんだか懐かしい。

中に入るとひんやりして肌寒い。そして最後にここにいた時のまま、時間が止まっているかのように空気はよどんでいた。

入院が初めての私は何が必要なのかわからない。ひとまず着替えとタオルそして洗面道具。足りないものがあれば後から差し入れしてもらえばいい。準備にはそれほど時間はかからなかった。

部屋をぐるっと見渡す。

私はもう一度この風景を目にすることができるのだろうか。漠然とした不安に押しつぶされそうになった。

「長い入院になる」そう医師に言われた。長いってどれくらいなんだろう。

次はいつこの部屋に戻って来られるのだろう。いや、そもそもその「次」があるのか。

一度この部屋を出たらもう次がないような気がして怖かった。

持ち物はそれほど多くない。必要最低限の物を紙袋に入れ、電気やガスのチェックをしたらもうやることはない。

玄関のドアを閉め鍵をかけた。「ガチャ」という音が響き渡る。私は辛い気持ちを振り切るように後ろを振り返らず車に乗り込んだ。

やるべきことは終わった。

その後寄り道をすることなく彼の家に戻り、すぐに横になった。とにかく疲れやすい。私はすぐに眠りに落ちた。

夕方電話が鳴った。母からだ。

「何か食べるもの持っていこうか?」

そうか、母は私が一人アパートで寝ていると思っているのか。

「大丈夫、友達とご飯食べに行くから。」

私はアパートにいません。

「わかった。それで、明日の入院だけど、病院まで送って行こうか。」

そうでした。母は私に彼氏がいることを知りません。わざわざ彼氏ができましたと報告するような歳でもなく、気づいたら3年近く経っていた。

さすがに言わないわけにはいかない。

「実はお付き合いしている人がいて・・・」と始まり、現在彼氏さんちに居候していることや彼氏さんが病院まで送ってくれることを一気に説明した。

「あ、そうなんだ。それなら病院で待ってるね」とだけ母は言い電話を切った。

事なきを得た。

最後の夜

その晩は彼氏さんといろいろ話をした。なるべく重苦しくならないように振舞った。それでも油断すると涙がこぼれる。それにつられて彼氏さんも泣く。その逆も然り。

私たちは不安だったのだ。情報が足りなさ過ぎた。どれくらいの入院になるのか。次いつ会えるのか。何か月も続く入院なのか。一時退院できるのか。

「もう二度と会えないんじゃないか。」彼氏さんは私を抱きしめながらそう言った。

「大丈夫、会えるよ。ちゃんと帰ってくるよ」そう励ました。

私は帰ってくるよ、ここに…

時間は止まらない。いやおうなしに時計の針は刻一刻と進み、日付が変わろうとしていた。寝たら朝が来てしまう。もちろん、寝なくても朝は来るのだが。

寝て、目が覚めた時は明日だ。

後には戻れない。ここに留まることもできない。そんなことは百も承知だけど今日だけは時の流れに抗いたかった。

それでも当たり前というべきか、眠気には勝てず、私も彼氏さんも夢の中へと落ちていった。

そして目が覚める。

朝が来た。

月曜日が来てしまった。

私は入院する。二日前には想像だにしなかったことだ。

続きは次回のブログで

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