2クール目の抗がん剤は「メトトレキサート」という種類で、投与期間はわずか1日。1クール目と同様、投与後数日経つと白血球が減少し、底をつくとその後は緩やかに回復していく。数値が安定すれば一時退院できる。だが、今回は2週間後にもう一度メトトレキサートが投与されるため1か月は退院できない。
氷を舐めながらの抗がん剤投与
入院の翌朝、バイタル測定が終わり、しばらくすると看護師がやってきて抗がん剤の準備をし始めた。
「冷えピタ、貼りましょうか。」
メトトレキサートの副作用である口内炎を予防するため、両あごに冷えピタを貼るのだ。どれほどの効果があるのかは不明だが言われた通りにした。
「まずは吐き気止めから入れますね。」
そう言うと看護師はグラニセトロンという吐き気止めを静注した。点滴スタンドには何種類ものパックがぶら下がっている。私なら頭がこんがらがってしまいそうだが、さすが看護師は手際が良い。慣れた手つきで作業を進めていく。
「では、メトいきますので、30分間氷を舐め続けてくださいね。」
メトとはメトトレキサートのこと。私はクラッシュアイスの蓋を開けてカップを胸の上に置き、一つずつ口の中に入れていった。空調が効いているとはいえ真冬だ。すぐに身体が冷え、布団をかぶっても寒さで全身が震えた。それでも口内炎で苦しむよりましかと思い、30分間氷を口に入れ続けた。
30分間の投与が終わると冷えピタと氷は終了となり、その後23時間と30分かけてゆっくりと残りのメトトレキサートが投与された。
6時間おきの尿検査
抗がん剤投与は無事終了した。たった1日だけだ。イベントが終わると特にやることはないのだが、今回は副作用予防のために葉酸製剤であるロイコボリンを投与したり、腎臓を保護するために尿がアルカリ性になっているか確認する作業がある。
私のやるべきことは6時間おきの採尿だ。
6時間おきなら負担にならないと思ったのだが、私はすぐに生活のリズムを崩し、睡眠不足に陥った。深夜0時の尿検査が原因だった。
病院の消灯は21時半。大部屋は強制的に真っ暗になる。以前の私なら0時まで起きていることはできたが、今ではすっかり病院のタイムスケジュールに身体が順応し、消灯とともに深い眠りに落ちる。ただ、持続点滴をしているため排尿の間隔が短い。夜中に1,2度トイレに行きたくなり目が覚める。これがネックなのだ。21時半に寝て、0時に起きられれば良いのだが、そんな都合よくいかない。
例えば23時にトイレに行きたくなりいったん起きる。そしてベッドに戻りノンレム睡眠に入った頃、「0時ですよ。尿検査お願いします。」と看護師に起こされる。なんとか起き上がってトイレに行くのだが、今度は目が覚めてしまいしばらく寝られない。
そんなこんなであっという間に生活のリズムが崩れた。昼間も眠くてリハビリを断ったほどだ。
「6時間おきならまだいい方ですよ。2時間おき、という人もいますから。」
と看護師に言われた。2時間おき?!夜中に2時間おきに起きなきゃいけないなんて地獄だ。確かにそれに比べたらましか、と思ったが、それはそれ。今現在私は寝不足で辛いのだ。
尿検査は3日間で終わる。あと少しの辛抱だ。
抗がん剤の抜けが悪い
3日目の朝、いつも通り医師が病室に来て血液検査の結果を説明してくれた。ASTやALTなどの肝臓の数値が高めということ以外、特に問題はなかった。
続けてもう一枚の検査結果を見せられた。そこにはメトトレキサートと書かれている。数字はメトトレキサートの血中濃度だ。
「メトの抜けが悪いようです。もう少し尿検査を続けます。」
そう言うと医師は赤のボールペンで0.17という数字に丸をつけた。0.1以下にならなくてはいけないとのことだ。
抜けが悪いということに不安を覚えたが、それよりも6時間おきの尿検査が延長されることのほうがショックだった。やっと解放されると思ったのに。
結局その夜も熟睡することはできなかった。
※検査結果※
| 入院初日 | 抗がん剤投与 終了1日後 | 抗がん剤投与 終了3日後 | 基準値 |
白血球 | 10,420 | 8,500 | 4,980 | 3,300~8,600 |
赤血球 | 272万 | 272万 | 257万 | 386万~492万 |
ヘモグロビン | 8.4 | 8.5 | 8.1 | 11.6~14.8 |
血小板 | 99万 | 78万3,000 | 60万8,000 | 15万8,000~34万8,000 |
AST | 23 | 20 | 40 | 13~30 |
ALT | 33 | 28 | 51 | 7~23 |
LD | 352 | 290 | 249 | 124~222 |
尿素窒素 | 11.0 | 9.3 | 14.0 | 8~20 |
血清クレアチニン | 0.75 | 0.71 | 0.77 | 0.46~0.79 |
延長されてから2日後、メトトレキサートの血中濃度は0.05となり、やっと尿検査が終了した。
私は心から喜んだ。たかが6時間おきの尿検査。しかも辛いのは0時のみ。それでも解放感は半端ない。今夜から時間を気にせず眠れる。
あ、メトトレキサート、もう1回投与されるんだ・・・
2週間後にまた同じことをしなければいけないのを思い出した。
やめよう、今は考えないでおこう。
※メトトレキサート血中濃度※
投与 翌日 | 2日後 | 3日後 | 4日後 | 5日後 | |
メトトレキサート | 13.49 | 1.21 | 0.17 | 0.13 | 0.05 |
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