がん細胞検出されず
一つのクールが終了すると仮退院が許され、1週間から2週間程度自由の身になる。そして次の抗がん剤治療のためまた入院する。白血病の治療はこの繰り返しだ。
私は既に2クールが終了している。今回の退院は12日間と比較的長い。こういう場合は入院前に外来受診を挟むことが多い。主治医によって診察日が決まっており、私の場合は木曜日だ。もし発熱などの症状があれば予約日以外でも診てくれる。
退院してすぐに腹痛が現れ、受診した方がいいだろうかと思ったが、下剤を中止したところ徐々に症状が軽くなったため、予定通り木曜日に受診することとなった。
先に血液検査と尿検査を終え、診察を待った。検査結果が出るまでに1時間程度かかるため、予約の1時間前には病院に着いているのだが、血液検査も結構待たされる。それもあってか、予約時間通りに診察を受けられることはまずない。
この日も予約から1時間経ったころに名前が呼ばれた。
この瞬間は多少緊張する。血液検査の結果がよくなかったらどうしようと思うのだ。
椅子に座ると医師が体調を聞いてきた。私は腹痛と関節痛について伝えた。そして次に医師が血液検査の結果をモニターに表示しながら説明する。基準値外のものもあったが、概ね良好という結果だった。
「退院前にやったマルクの結果も出ています。」
急に緊張が走った。
顕微鏡ではがん細胞がないように見えても、マルクで骨髄検査をすると検出されることは多々ある。1月の始め、つまり寛解導入療法が終了し、地固め療法の1クール目に入る前はまだがん細胞が残っていた。2クール目が始まる時は特に何も言われなかった。聞くのを忘れていたがおそらくがん細胞が検出されたのだろう。
ドキドキしながら次の言葉を待った。
「がん細胞は検出されませんでした。」
よっしゃーーー!
私は心の中でガッツポーズをした。ついにがん細胞をやっつけた。飛び上がって喜びたい気持ちだったが、あくまで冷静を装い、「あ、そうですか。」とだけ言った。
続けて医師が言う。
「アイクルシグを1錠に減らします。」
これまで2錠飲んでいたアイクルシグが半分に減らされた。私は安堵のため息をついた。
治療が始まって3か月半。初めてその効果を実感できた瞬間だった。
※血液検査の結果※
| 2クール目 退院前日 | 外来受診 | 基準値 |
白血球 | 4,410 | 5,120 | 3,300~8,600 |
赤血球 | 263万 | 301万 | 386万~492万 |
血小板 | 17万2,000 | 14万1,000 | 15万8,000~34万8,000 |
AST | 18 | 29 | 13~30 |
ALT | 25 | 39 | 7~23 |
LD | 173 | 197 | 124~222 |
尿素窒素 | 14.3 | 12.0 | 8~20 |
血清クレアチニン | 0.82 | 0.81 | 0.46~0.79 |
主治医が変わる
診察もそろそろ終わるという頃、医師が何かを思いついたような表情をして口を開いた。
「まだ伝えていなかったと思うんですが・・・」
「え?」
私は瞬時に悪い知らせだと感じ取り、マルクの結果を聞かされる時と同じくらい全身に緊張が走った。何か他に問題が見つかったのだろうか。せっかくがん細胞がなくなったのに。
「今月末で異動することになりました。」
申し訳なさそうに言う医師。病気のことではなかったという安堵感と主治医が変わるという不安感、私はその両極端の感情に挟まれて返す言葉を失った。
「3クール目が終わるまでは担当できると思いますし、引継ぎもちゃんとしますので安心してください。」
私の気持ちを察したかのように医師はそう続けた。もちろん、しっかり引継ぎをしてくれるとは思っている。他の医師が嫌というわけでもない。ただ、安心して治療を受けてこられたのは医師との信頼関係があったからだと思っている。また一から関係を築かなければいけない。主治医が変わるというのは医師が思っている以上に患者にとっては重大なことなのだ。
主治医が変わるということを全く想定していなかった私は、落胆した気持ちを結構長い間引きずった。
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