桜の満開に間に合う
一番楽だと言われた3クール目の治療。副作用はなく体調も安定していた。1クール目では血球の値が回復する際に発熱して退院が数日延期されたが、今回はそれもなく、16日間という短い入院で退院できた。
3月の月末。桜は満開だ。
次の入院は2週間後。その間に桜を見に行ける。幸い関節痛も治まり、体力もそれなりに回復した。これまでの仮退院ではどこかしら体調に問題が出て思う存分楽しめなかったが、今回はきっと大丈夫だ。
退院の時はだいたい両親が迎えに来てくれる。そして彼氏さんちに送ってもらい、彼の帰りを待つのだ。
一番短い入院だったとはいえ、2週間ぶりの部屋はどこか他人行儀で私を不安にさせる。退院して「自宅に戻る」と言いたいところだが、今は入院のほうが長いせいで「病院に戻る」と言う方がしっくりくる。彼氏さんの家は「一時的に滞在する場所」という感覚なのだ。
アパートに着くと、両親が荷物を運んでくれた。体調が良いとはいえ、荷物を持って歩いたり、段差を上ることは難しい。体力は戻っても筋力はなかなか戻らない。
最後に母が大きな花束を持ってきてくれた。
「○○さんが昨日自宅に届けてくれたよ。」
黄色のカーネーションに赤いバラ。見ているだけで元気になるような花束だった。○○さんというのはツーリング倶楽部のリーダー。今回の退院に合わせてわざわざ実家まで花束を届けてくれたのだ。
一度はあきらめかけたバイク。売却してしまおうかと迷っていた時、リーダーが「みんなで待っているから、つながりを切っちゃだめだよ。」と励ましてくれた。今回のこの花束も「早く治りますように」という気持ちを込めて送ったんだと聞かされた。
私は1人じゃない。待っていてくれる人がいる。
そう思えるだけで幸せだ。
さっそく花瓶を買い、玄関やリビングに飾った。花がある空間は心を和ませてくれる。
自然と笑みがこぼれた。
ラーメンと満開の桜
今回の退院中にどうしてもやりたいことが二つある。
美味しいラーメンを食べに行くことと、お花見をすることだ。
病院の給食は栄養バランスはいいが物足りない。そのせいだろう、退院が近づくにつれて食に対する欲求が異常に強くなる。毎回食べたいものリストを作り、それを励みに入院生活を乗り切るというのがルーティンになってきた。
行きたいお店は入院中に決めていた。自宅から車で30分程度の所にある。よくよくお店の場所を確認すると、巷で有名なお花見スポットの近くだということが判明した。
一石二鳥とはこのことだ。
お花見当日。
雲一つない青空だった。暖かい日差しが降り注ぎ、外を歩いていても全く寒さを感じない。まさにお花見日和だ。
ラーメンを食べてから、お店の真ん前にある公園を歩いた。満開の桜の木の下でお弁当を広げてお花見をしている家族がたくさんいた。私たちはそんな賑やかな公園を横切り、お目当ての桜並木へ向かった。
公園を抜けると1本の川が流れている。その川の両岸に1,000本ものソメイヨシノが並んでいる。それが満開を迎えるとまさに圧巻だ。
これまで何度もお花見をした。だいたいが「花より団子」だったが、今年は違う。純粋に満開の桜を楽しみ、そして、幸せを感じた。
あと何回満開の桜を見られるのだろうか。
来年の今日、生きているという保証はない。桜を見られるのはこれで最後かもしれない。
もちろん病気に勝ちたいとは思っている。だが、残念ながら未来のことは誰にも分らない。私にできることは今日という一日を精一杯生きることだけだ。
今生きていること、それだけで幸せなんだ。
私は美しい桜並木を写真に収め、大満足で帰路に着いた。
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